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今年の春闘は3月15日に集中回答日を迎え、労働組合側の要求に、「満額回答」で応える大手企業が相次いだ。かつてない物価高と人材不足を背景に、労働組合側は25年ぶりとなる平均4%超の賃金アップを要求。

トヨタ自動車も過去20年で最高水準の要求を受けたが、もっとも高いケースで月額9千370円の賃上げや月給6.7カ月分のボーナスといった満額回答で応じた。

満額回答は、自動車主要12社をはじめ、日立製作所など電機大手12社、実に49年ぶりという三菱重工業など機械大手3社にも及んでいる。製造業の主要企業全体を見ると、86%が満額回答という賃上げラッシュだ。

3月17日の連合の発表によると、基本給の水準を上げるベースアップ率2.33%を含む、賃上げ率は平均3.8%。30年ぶりの高水準だという。

大和証券チーフエコノミストの末廣徹さんは「予想以上に高い数字が並んだ印象だ」という。

ユニクロなどを運営するファーストリテイリングは、円安の恩恵を受け過去最高益を記録しました。ほかにも、海外に展開する製造業など、好調な企業が賃上げに応じるのは当然ですが、そうでない企業も軒並み高水準です。人手不足を受けて、優秀な人材確保のために動いたのでしょう」(末廣さん)

だが、これまでに賃上げが確定したのはほとんどが大企業会社員の約7割が働くとされる中小企業の春闘はこれからが本番だ。

中小企業は賃上げは望めない

“この春こそ収入アップを”と期待する、中小企業に勤める人は多いはずだが……。

「難しいと思います。中小企業は国内向け製品を作る内需型の企業が多く、円安はむしろ逆風になる。今はエネルギー価格や原材料費の高騰で厳しい状況にあり、そのうえ賃金を上げる余力のある中小企業は少ないでしょう」(末廣さん)

経済ジャーナリストの荻原博子さんも「厳しい」という意見だ。

大企業は安倍政権下から内部留保を積み上げていますから、それを原資に賃上げは可能でしょう。でも中小企業は、消費税増税やコロナ不況、原材料費の高騰などに苦しんでいます。さらに原材料費などのコスト上昇分を、製品価格に転嫁できない中小企業は多い。会社の存続さえギリギリで、賃上げなど無理だというところが多いのでは」

2022年12月発表の経済産業省の調査では、発注側企業がコスト上昇分の価格転嫁に応じたのは46.9%にとどまり、約20%はまったく価格転嫁できていないという。中小企業の賃上げが望めないなら、家計のひっ迫は今と変わらず続くことになる。

■3.8%賃上げされても以前の水準は遠く

家計の現状を見てみよう。厚生労働省の統計によると、2023年1月、賃金は0.8%と微増するものの、消費者物価は5.1%の上昇。これらを考慮した実質賃金は前年比で4.1%のマイナスだ。ファイナンシャルプランナーの山口京子さんによると、実質賃金とは……。

イメージとしては、給料が30万円のAさんは、0.8%アップで月2400円給料が増えます。Aさんは喜びますよね。でも、Aさんの生活費が20万円だとすると、物価が5.1%上昇していますから、同じ買い物をしても、10200円支出が増えることになります。

収入増加の2400円から支出増加の10200円を差し引くと、月7800円の赤字。つまりAさんの場合、実質賃金は7800円減っているということです」

月給30万円の人の場合、賃金アップがなく、物価上昇率がこのまま続けば、1年間で93600円もの赤字が積み上がることになる。これが中小企業に勤める多くの人の実情だという。

末廣さんは「長期的な視点に立った生活実感は、厚労省が発表する実質賃金よりずっと厳しい」と指摘する。というのも、厚労省の実質賃金には食費や日用品費などの物価変動は含まれるが、社会保険料や所得税などの税金、不動産価格、株価などは含まれない。末廣さんはこれら4要素を加えた物価指数をもとに「実感に近い実質賃金」を試算した(グラフ参照)。

2012年100とすると、厚労省の実質賃金は2012年からの累計で6.5%減少しているが、実感に近い“生活実質賃金”はさらに低く、11.8%も下がっている。

2017年まで社会保険料が段階的に引き上げられたことや、アベノミクスで株価が高騰したことなどが影響しているのでしょう。金融資産や不動産などを持たない一般の方にとっての苦しい生活実感を反映していると思います」(末廣さん)

荻原さんは、国民の所得に対する税や社会保険料などの負担割合を示す「国民負担率」の増加の影響が大きいという。

財務省によると、国民負担率は10年前は約40%でしたが、今では46.5%。家計が苦しくなっている原因のひとつです」(荻原さん)

実感に近い実質賃金が2012年比で11.8%減だとすると、平均3.8%の賃上げを実現した大企業に勤める世帯ですら、生活が豊かになるかは疑わしい。ましてや、賃金アップが期待しづらい中小企業に勤める人は貧しくなる一方だ。世間の賃上げムードにだまされず、冷静に家計を見極めよう。



(出典 news.nicovideo.jp)


<このニュースへのネットの反応>

大企業ばかりが潤って、その恩恵を下請けに流さずせき止めていれば中小企業も賃上げなんてできないよな